牛山羊の星座

これまた今読んでいる『ロシア語メモ』の中でロシア文学といったらいかついものばかり想像されるけど、こんなロマンチック?かわいい?のもあるよ、と紹介されていた小説。

 

ロマンチックと評されていたかどうか、本が今手元にないので確認できないけれど、このタイトルのようなキラキラしたロマンチックな話では全然なかったけれど、1940年代のソビエトの様子を垣間見ることができ、会社の労働環境悪化について皆でぼやいてるときに「なんか急に急進的なこと言い出したこの人」と笑わせるくらいには社会主義が体に浸透したらしい。

 

むちゃくちゃ面白いと思ったのは、これまでよく見てきたモスクワやサンクトペテルブルグのお話ではなくて、南部の、今ではジョージアの中にある自治共和国であるアブハジアというところが舞台で、地元の人がロシア語とアブハズ語を使い分け、主人公も本当は地元なのでアブハズ語は分かるけど、分からないフリをしている、とか、そういう言語切り替えのエピソードが入っていたところ。

あと、モスクワのイメージで読んでしまうと「海辺」という単語にもいちいち驚く。ここで言う、海、は黒海のことで、我々日本人のイメージする無限に広がるあの海とは全然違うのでしょう。かと言って湖と呼ぶほど小さい訳でもないでしょう。大体、ソビエトと海水浴が結びつかない。

ロシア語の翻訳ですが、あまりにもきれいな日本語で、翻訳の難しさで挫折してきたこれまでのロシア文学は何だったのか。新しい世界を教えてくれる、この「ロシア語メモ」は本当に素晴らしい。

ついでに、グルジア文字についても目にしたので、これまたびっくり。あの辺りはキリル文字だけなのかと思いきや、グルジア文字は東南アジアの文字を彷彿させる丸っこい文字が並んでいる。アブハズ語も、この小説が書かれた頃はこの文字を使っていた模様。

図書館で借りましたが、85年のハンコが押してありました。けれど、ずっと書庫にあった本のようで、すごく状態がいい。この本を手にして読んだのも私が数人目かもしれません。ほんと、こんな面白いものを訳してくれた人、図書館に入れてくれた人、ありがとう。買って手に入れることができない本が読めるというのは、ほんと図書館の素晴らしいところです。

 

アブハジア