武田百合子

犬が星見た―ロシア旅行 (中公文庫)

犬が星見た―ロシア旅行 (中公文庫)


私にとって新聞が手放せない理由の一つは、こうしてまた自力では出会うことができない素晴らしい本を教えてもらえること。


人の旅行記なんて面白くもなんともないだろう、という気持ちで読み始めましたが、なんでか、面白い。
視点が独自?
取り上げる内容が独自?
文章が独特?


昭和54年という古いときに書かれたエッセイなので、「トイレ」を「便所」と女性が書いているのはまぁもしかするとそれで違和感はないのかもしれませんが、それにしても、トイレの描写がこんなに多いエッセイはないだろう、と思います。「ロシア女」のダイナミックな音の描写には度肝を抜かれました。こんなん書いていいんだ!と。「うんこが出たい」という奇妙な日本語にも、少なくとも二回、いや、三回は遭遇します。


「あーおもしろかった」という気持ちであとがきを読んだら、実はこの旅行の直後に同行のご主人と親友の方が相次いで亡くなってるということを知ります。亡くなったあとで出版されたもののようです。
それを知って読むとまったく違うように読めるかもしれません。けれど、しんみりが苦手な私としては、そのことを知らずに、からりとした気分で読むのがとてもよかったです。